令和2年6月24日通知

法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行に伴う不動産登記事務の取り扱いについて,という通知が発せられました。

 法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「法」という。)が本年7月10日に施行されるところ,これに伴う不動産登記事務の取扱いについては,下記の点に留意されたい,とされました。

 法の施行により,自筆証書によってした遺言に係る遺言書(以下,単に「遺言書」という。)について,法に基づき保管の申請がされた場合には,遺言者の相続人等は,遺言書保管官に対し,当該遺言書について,遺言書保管ファイルに記録されている事項(法7条第2項各号)を証明した書面である「遺言書情報証明書」の交付を請求することができることとされた(なお,遺言書保管所に保管されている遺言書については,家庭裁判所の検認手続は不要である(法第11条)。)。

 遺言書保管所に保管されている遺言書に基づいて不動産登記の申請がされる場合には,添付情報として遺言書情報証明書が提供されてることになるが,遺言書情報証明書には,遺言書の画像情報のほか,遺言書に係る情報の管理に必要な事項が記載されているところ,不動産登記申請の審査に当たっては,遺言書そのものの内容である遺言書情報証明書に表示された遺言書の画像情報によって行うこととなり,それ以外の記載事項によることはできないので,留意されたい。

 また,不動産登記の申請において,遺言書情報証明書を遺言者の死亡を証する情報として取り扱うことはできない。

特別の寄与

 民法が改正されるまでの間は,寄与分を受けられるのは,相続人に限られておりました。

したがって,相続人でなければ,どんなに被相続人に対して寄与をしたとしても,寄与分として受け取ることができませんでした。

よく事例に挙がるのは,長男(相続人)の嫁(長男の妻)として,長男の父の介護を献身的に一生懸命しても,その父(長男の父)が亡くなった後には(長男の嫁は相続人ではないため)何ももらえないこととなっておりました。

勿論,見返りがあるから行っていたわけではありませんが,相応の遺産の取り分があってもおかしくありませんでした。

これまで,長男の妻の寄与分を考える上で,長男(相続人)の寄与分として,認める裁判例もありましたが,寄与した長男の妻の寄与分が長男に行くことの法的根拠がないことや,それを認めると他の相続人との間で不公平感も生まれることが指摘されておりました。

そこで,相続人以外でも,被相続人と親族であったものは,特別の寄与に預かれるとしました。

しかし,「無償」であることが前提と解すこともできるため,費用負担が長男の妻になされていれば,特別の寄与者とは言えないこととなります。

相続登記を早く行わいといけなくなりました。

相続登記を早く行わなければならなくなりましたが,具体的には,

(設例として,特別受益,遺留分等はないものとします。)

 被相続人A男はB女と結婚し,子Cと子Dがいる。

 B女は,被相続人A男よりも先に死亡している。

 被相続人A男は,遺言書において,子のCに4分の3,Dに4分の1の割合を相続分として記載し,死亡した。

 Dは,被相続人A男名義の不動産について,C,D名義の法定相続(法定相続登記は,D単独でもできます。)による相続登記をしたうえで,法定相続した自己の持分(2分の1)を,金融業者Eに譲渡し,持分移転登記も行った。

 Cは,Eに対し,「遺言書で4分の3としているので,4分の3は自分のものだ」と言えるか?

 改正前であれば,登記なく対抗できたので,その主張は通りましたが,これからは(改正後は),Eが背信的悪意者に該当しない限り,Cは,法定相続分(2分の1)を超える部分は登記がないため,Eに対抗できないこととなります(Eが2分の1を合法的に取得します。)。

もう少し複雑にしてみましょう。

被相続人A男はB女と結婚し,子Cと子Dがいる。

被相続人A男は,遺言書を書き,その内容として,被相続人A名義の不動産は全部B女に相続させ,その他の財産については,B女,子C,子Dで法定相続分にしたがって相続させる,とした。

Dの債権者Eが,被相続人A名義の不動産について,B女,子C及び子D名義の法定相続登記を代位(E単独で出来ます)で行った。

Dの持分について,仮差押えの手続きを始め,仮差押えの登記がなされた。

B女は,Eに対し,「遺言書で不動産の全部は,私に相続させるとなっているので,私に全部の権利がある」と言えるか?

B女は,Eが背信的悪意者でない限り,Dの法定相続分(4分の1)については,(遺言があっても)Eに対抗できないため,B女,子C,子D名義の登記及びE名義の仮差押えの登記が入ったままとなります。

改正相続法で

相続の効力に関して,大きく異なる規定になった条文もありますが,その中でも,特に,

民法第899条の2第1項

この条文では,「相続による権利の承継は,遺産の分割によるものかどうかにかかわらず,次条及び第901条の規定により算出した相続分を超える部分については,登記,登録その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない。」とし,従来の判例とは異なる条文となった。

分かりやすく言うと,法定相続分を超える部分は,登記を先にした者が勝つ(対抗できる)とされました(要は早い者勝ち)。

これまでの判例では,

1 相続分の指定による不動産の権利の取得については,登記なくその権利を第三者に対抗できるとしていました(最判平成5年7月19日)。

また,

2 相続させる旨の遺言があった場合,特段の事情がない限り「遺産分割方法の指定」に当たるとしたうえで,遺産分割方法の指定そのものに遺産分割の効果を認めて,当該遺言によって不動産を取得した者は,登記なくその権利を第三者に対抗することができるとされていました(最判平成14年6月10日)。

これによって,「相続だから放っておけばよい」「遺産分割の話し合いはまとまったので,登記は後で構わない」等とは言えなくなり,早く登記しないと自己の権利が実現できない可能性もあることになりました。

コロナ対策です。

コロナ対策について

・現金に触れる回数を減らすためにキャッシュレス(振込)決済を導入している

・すべてのスタッフにマスク着用を要請している

・換気は常時行っている

・ご相談者様にもマスクの着用をお願いしている

・体調のすぐれないご相談者等はキャンセルしていただいている

・営業時間終了後は,ご依頼者様等の使われる椅子・カウンター・テーブル等のアルコール消毒を励行している

・体調の優れないスタッフは休ませている

・ゴミ箱は蓋付きのものを使用している

嫡出子と非嫡出子について

 嫡出子と非嫡出子について,相続手続きについて,次のとおり変更となっております。

 従前は,非嫡出子の相続分は,嫡出子の半分とされておりましたが,同じ割合になりました。

 間違えが多い部分ですので,今一度,掲載しておきます。

 新法が適用されるのは,平成25年9月5日以後に開始した相続です。

 もっとも,平成25年9月4日の最高裁判所の違憲決定があることから,平成13年7月1日以後に開始した相続についても,既に遺産分割が終了しているなど確定的なものとなった法律関係を除いては,嫡出子と嫡出でない子の相続分が同等のものとして扱われることが考えられます。

相続法の改正

相続法(民法の相続に関する条文)の一部が改正され,その施行日がまちまちです。 次のとおりとなりますので,お間違いないように。

新たな相続法の施行期日は、以下のとおりです。

(1)自筆証書遺言の方式を緩和する方策 平成31年(2019年)1月13日

(2)原則的な施行期日 (遺産分割前の預貯金制度の見直しなど) 令和元年(2019年)7月1日

(3)配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設 令和2年(2020年)4月1日

(4)法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度 令和2年(2020年)7月10日

個人情報

銀行に提出した「印鑑届書」について,提出した者が死亡した場合,個人情報の規定により相続人の請求により開示されるかが争われた事件について,最高裁は,個人情報には当たらず,相続人には開示しないとの判断をした(平成31年3月18日第一小法廷)。

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の一部施行

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が一部施行されます。

遺言,特に自筆証書遺言では,全ての内容を自筆で書かなければなりませんでしたが,平成31年1月13日からは,この自筆証書遺言について今よりも緩和されます。

改正の概要では,「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については自書することは要しないとされました。

相続の基本3類型

相続する前に知っておきたい3形態(相続の種類)

単純承認

相続が発生すると,被相続人が一身専属している権利と義務以外の全ての権利と義務が相続人に承継することになります。

権利も義務もということなので,土地の所有権も預貯金債権も被相続人の借金もその全てが承継されます。

相続が開始して,最も多い形態が,この単純承認です。

民法921条では,次に掲げる場合には,相続人は,単純承認したものとみなすとして,

1 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸借をすることは,この限りでない。

2 相続人が第915条第1項の期間内(相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。)に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

3 相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなったとき。

 

と定められており,3か月という短い熟慮期間内(期間伸長は申立てにより可能)にどの相続形態を選択するかを決めなければならず,その期間を徒過することによって,単純承認していることも多いと思われます。

相続の限定承認や相続の放棄と異なり,単純承認は,家庭裁判所の手続きを経ることなく,最もオーソドックスなスタイルといえますが,消極財産(マイナス財産)が積極財産(プラス財産)より多かったとしても,その負の遺産も相続人が承継することになります。

また,3か月が経過しなくても,相続人が相続財産の一部でも処分したときは,単純承認したものとみなされてしまうため,プラス財産が多いのか,あるいはマイナス財産の方が多いのか確定しない段階においては,被相続人の財産に一切手を付けないことが重要になってきます。

例えば,相続登記をしてしまった後に,莫大な負債が見つかっても,「今から相続の放棄をしよう」としても,単純承認をしたとみなされる結果,もはや相続の放棄をすることはできず,被相続人の借金を返していくか,あるいは相続人自身で支払いが困難であれば自己破産等の債務整理を行う必要も出てきます。

なお,民法915条第2項では,「相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産を調査することができる。」との規定があるため,相続形態を選択する前に遺産の調査を行うことができますが,実際には,三か月以内では足りない場合も多々あるため,この場合には,家庭裁判所に対して,期間伸長の申立てをして,その審判を得てさらに遺産の調査を続行することになります。

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