よくある質問で、推定相続人が2名いるとして、そのうちの1名の推定相続人に、自分(被相続人)が亡くなったことを知られない方法はあるでしょうか? ということをよく聞かれます。

仮に、A、Bの推定相続人がいるとして、遺言がなければ遺産分割協議をしなければならず、それにはA、B両名の協議が必要になり、他方に知られずに相続することできません。

Aは同居するなどしており、全財産をAにあげるつもりで、遺言でAに相続させるという遺言を書いたとしましょう。

この場合はどうでしょうか?

自筆証書遺言で、その遺言書を自宅に保管していた場合(死後、遺言書が発見されないというおそれはありますが)、その遺言書の内容に従って銀行手続きや不動産の名義変更を行うには、家庭裁判所の検認手付きを執らなければならず(裁判所外で遺言書を開封すると5万円以下の過料の制裁があります。)、その検認証明書がないと名義変更等ができません。

そして、その検認の手続きには、相続人全員の住所を書く必要があり、裁判所は相続人全員に検認する日を通知します。

そのため、内緒で手続きを行うことができません。

次に、自筆証書遺言を、法務局に預かってもらう手続きを踏んでいる場合はどうでしょうか?

この場合も、自分の死後、相続人が遺言書情報証明書(これで名義変更等ができます。)を発行してもらいますが、この証明書をもらうためにする申請で、相続人全員に対して法務局が通知するため、全相続人を明らかにしなければなりません。

したがって、その方法でも内緒で手続きを行うことはできません。

それでは、公正証書遺言で、一方の推定相続人に全財産を相続させようと考えますが、公正証書遺言の場合、ほとんどが遺言執行者を定めます。

遺言執行者は、相続人に対して、就任の通知や財産目録等を作成して送るなどしなければなりません(遺留分のない兄弟姉妹が相続人になった場合も同じです。)。

そのため、他の相続人に秘して手続きを行うことはできません。

それじゃわかった、遺言執行者を定めなければいいんだ、と考えるかと思いますが、他の相続人に知らせる義務がないとしても、秘して遺言内容を実現すると、「遺留分を害することを知っているにもかかわらず、その機会を奪って相続した」ということで(短期消滅時効にかかったとしても)損害賠償請求を受けるおそれがあります。