1 遺言がない場合

不動産の名義人に相続が開始したときには、当該不動産の所有権を取得した者は、「自己のために相続開始のあったことを知り」「当該不動産の所有権を取得した」ことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならないのが原則であるが、同期間内に、当該不動産の名義人について相続が開始した事実と自らが当該不動産名義人の相続人である旨を登記官に申し出ることができるようになった。

これにより、複雑な相続登記をしなくとも義務を履行したものとみなされることになった。

これが、「相続人申告登記の申出」である。

2 遺言がある場合

遺言により、不動産の名義人の相続人に「遺贈」するとなっていたときは、当該相続人は、「自己のために相続が開始したことを知り」「当該不動産を取得したことを知って」から3年  以内に相続登記をする義務を負うことになるが、この場合も例外として「相続人申告登記の申出」をすることによって、相続登記の義務を履行したとみなされる。

3 遺産分割が成立した場合

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、法定相続分の割合に応じて所有権を取得した者は、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記義務を負うが、これに加えて遺産分割によって所有権を取得した者は、当該遺産分割から3年以内に相続登記をする義務を負うが、次の点に注意が必要である。

  • 法定相続登記後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務

遺産分割によって、法定相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産分割の日から3年以内に相続登記をしなければならない。

  • 相続人申告登記の申出後に、遺産分割が成立した場合の追加的申請義務

申出後に、遺産分割が成立したときは、遺産分割の日から3年以内に相続登記をしなければならない。

4 代位者や官公署の嘱託により登記がされた場合は、申請義務については適用しない。

5 経過措置

令和6年4月1日から相続登記は義務になるが、その前に発生した相続については、「当該施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は当該施行日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記をしなければならない。

6 正当な理由

相続登記は原則義務となるが、正当な理由があれば、その義務を免れることとなる。例示をするが、この例示にあてはまらないから正当な理由がないとは言えず、それ以外でも、個別具体的な事情があれば、正当な理由があると判断される。

  • 相続登記等の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数の上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
  • 相続登記等の申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかになっていない場合
  • 相続登記等の申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
  • 相続登記等の申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
  • 相続登記等の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合