相続の基本3類型

相続する前に知っておきたい3形態(相続の種類

単純承認

相続が発生すると,被相続人が一身専属している権利と義務以外の全ての権利と義務が相続人に承継することになります。

権利も義務もということなので,土地の所有権も預貯金債権も被相続人の借金もその全てが承継されます。

相続が開始して,最も多い形態が,この単純承認です。

民法921条では,次に掲げる場合には,相続人は,単純承認したものとみなすとして,

1 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸借をすることは,この限りでない。

2 相続人が第915条第1項の期間内(相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。)に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

3 相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなったとき。

 

と定められており,3か月という短い熟慮期間内(期間伸長は申立てにより可能)にどの相続形態を選択するかを決めなければならず,その期間を徒過することによって,単純承認していることも多いと思われます。

相続の限定承認や相続の放棄と異なり,単純承認は,家庭裁判所の手続きを経ることなく,最もオーソドックスなスタイルといえますが,消極財産(マイナス財産)が積極財産(プラス財産)より多かったとしても,その負の遺産も相続人が承継することになります。

また,3か月が経過しなくても,相続人が相続財産の一部でも処分したときは,単純承認したものとみなされてしまうため,プラス財産が多いのか,あるいはマイナス財産の方が多いのか確定しない段階においては,被相続人の財産に一切手を付けないことが重要になってきます。

例えば,相続登記をしてしまった後に,莫大な負債が見つかっても,「今から相続の放棄をしよう」としても,単純承認をしたとみなされる結果,もはや相続の放棄をすることはできず,被相続人の借金を返していくか,あるいは相続人自身で支払いが困難であれば自己破産等の債務整理を行う必要も出てきます。

なお,民法915条第2項では,「相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産を調査することができる。」との規定があるため,相続形態を選択する前に遺産の調査を行うことができますが,実際には,三か月以内では足りない場合も多々あるため,この場合には,家庭裁判所に対して,期間伸長の申立てをして,その審判を得てさらに遺産の調査を続行することになります。

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相続と使用貸借

母親と長女が同居しており,母親が死亡した場合,長女は,直ちにその建物から立ち退かなければならないのか?

最判平成8年12月17日

「共同相続人の一人が,相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右同居の相続人との間において,被相続人が死亡し相続が開始した後も,遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は,引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって,被相続人が死亡した場合は,その時から少なくとも遺産分割が終了するまでの間は,被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり,右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。

けだし,建物が右同居の相続人の居住の場であり,同人の居住が被相続人の許諾に基づくもであったことからすると,遺産分割までは,同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが,被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」

 

以上のように,生前,母と子が同居していた場合,母の死後も,子は,遺産分割協議等が終了するまでの間は,その建物に居住することができ,また,使用貸借契約関係が遺産分割が終了するまでは続くことから,子は,無償で居住していられることになります。

職権消除と相続財産管理人選任の申立て

市長村長が,職権消除した者について,相続が開始したことになるのか?

「事案の概要」

① 所在不明者が100歳以上の高齢に達している場合には,市町村長が職権により死亡記載をすることができる(戸籍法44条3項・24条2項),というのが戦前からの戸籍実務の取扱いである(高齢者職権消除。大正5年2月3日民事第1836号司法省民事局長回答,昭和6年2月12日民事第1370号司法省民事局長回答,昭和24年9月17日民事甲第2095号法務省民事局長回答,昭和32年1月31日民事甲第163号民事局長回答「100歳以上の高齢者の所在が不明で,その生死及び所在につき調査の資料を得ることができないときは,市町村長より職権消除の許可申請書にその事由を記載し戸籍謄本及び戸籍附票謄本を添付させ,監督法務局又は地方法務局の長においてその消除を許可して差し支えない。」)

②高齢者職権消除の手続きにより,A女の戸籍は,昭和27年11月6日付け許可を得て,同月10日に除籍された。

③そこで,Xは,Aの除籍謄本を添付して,松山家庭裁判所に,相続財産管理人の選任の審判申立てを行った。

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法定相続情報証明制度

平成29年5月29日(月)から,全国の法務局において,各種相続手続に利用することができる「法定相続情報証明制度」が始まりました。

今までは,銀行預金等の相続手続では,お亡くなりになられた方の出生からの戸除籍謄本等の束(多ければ何十通)を,相続手続を取り扱う各窓口に何度も出し直す必要がありました。

法定相続情報証明制度は,法務局に戸除籍謄本等の束を提出し,併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すれば,登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してくれます。

その後の相続手続は,法定相続情報一覧図の写しを利用いただくことで,戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。

これで,同時に,複数の相続手続きを行うことができ(これまで同時に行う場合には,戸籍の束の原本を何通も用意しなければなりませんでした),時間と各窓口担当者の事務負担の軽減が図られ,迅速に相続手続きを進めることができるようになります。

お亡くなりになられた方が不動産を所有していた場合,不動産の相続登記申請と同時に,この申出をすれば,1回の手続きで不動産の相続登記と法定相続情報一覧図の交付を受けることができ,交付を受けた法定相続情報一覧図を,他の管轄の不動産登記申請に利用したり,預貯金の相続手続きに利用できるなど,活用の場は広がっていくと思われます。

注意点としては,この法定相続情報一覧図は,相続手続きだけに利用が認められること,法定相続人を一覧図で明らかにするものであって,相続放棄や遺産分割協議の結果や法定相続分の記載がなされるものではないことなど,様々な形態のある相続手続きにおいてこれで全て事が足りるというではないことはご理解いただきたいと思います。

自筆証書遺言の押印について

自筆証書遺言は,署名押印を一つの要件としているものの,これが欠けた自筆証書遺言は,効力を生じないか? という問題があります。

 

第968条1項では,「自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。」とされており,押印が欠けると折角の遺言も無効になってしまいます。

 

そして,この趣旨として最高裁(平成1年2月16日判決)は,遺言書全文の自書と相まって遺言者の同一性及び真意を確保するともに,重要な文書については作成者が署名しその下に押印することで文書の作成を完結させるという,我が国の慣行ないし法意識に照らして,文書の完成を担保するところにあるとしています。

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遺言内容と異なる遺産分割協議

相続で,よく相談を受ける一つのテーマとして,

遺言内容と異なる遺産分割協議はできるのでしょうか?

前提条件として,

① 遺言で,遺産分割が禁止されていない。

② 遺言執行者が定められていない(厳密にいうと,遺言執行者が同意すれば可能)。

③ 相続人全員の合意がある。

以上を満たしている場合,次の裁判例によっても,認められています(上記②には裁判例がありますが,割愛してます)。

 

[さいたま地方裁判所平成14年2月7日判決]

(1)特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど の特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては,当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても,当該遺産については, 上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。

しかしながら,このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は,相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから,これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても,直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。

被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別,そうでなければ, 被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく,むしろ全相続人の意思が一致するなら,遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。 法的には,一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが,このような遺産分割は,相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが 可能であるし,その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても,全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり,ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから,前記判例は,その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から,これを不要としたのであって,相続人間において,遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず,その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

(2)本件においては,本件土地を含むDの遺産につき,原告ら全ての相続人間において,本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ,Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく,原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上,被告は本件遺産分割については,第3者の地位にあり,その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると,本件遺産分割の効力を否定することはできず,本件土地は原告らの共有に属すると認められる。

 

国税庁のホームページより ,

遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税

【照会要旨】  被相続人甲は,全遺産を丙(三男)に与える旨(包括遺贈)の公正証書による遺言書を残していましたが,相続人全員で遺言書の内容と異なる遺産の分割協議を行い,その遺産は,乙(甲の妻)が1/2,丙が1/2それぞれ取得しました。この場合,贈与税の課税関係は生じないものと解してよろしいですか。

【回答要旨】  相続人全員の協議で遺言書の内容と異なる遺産の分割をしたということは(仮に放棄の手続きがされていなくても),包括受遺者である丙が包括遺贈を事実上放棄し(この場合,丙は相続人としての権利・義務は有していま。),共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えありません。したがって,照会の場合には,原則として贈与税の課税は生じないことになります。

 

千葉県での相続なら,

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当事務所オフィシャルHP(千葉県民司法書士事務所)

http://chiba-shihoshoshi.com/

 

 

住宅ローンを引き継いだ後の債務整理

住宅ローンがある場合の債務整理

 

住宅ローンの残額がある方が亡くなってしまった場合で,相続放棄もせず期間が経過しまった場合,住宅ローン債務や,その他のお亡くなりになった方の借金も相続する(引き継ぐ)ことになります。

その場合,相続人が住んでいる不動産であれば,それを手放したくないお気持ちは十分に理解できるところです。

また,相続人自身にも債務があった場合,自身の債務と合わせて被相続人の債務も返済していかなければならず,大きな負担になります。

もっとも,支払いが難なく実行できるのであれば,約定のまま支払いを継続していけば問題はないのですが,支払いが厳しい場合には,返済を楽にする方法を検討する必要があります。

 

 

一般的な債務整理の方法についてご説明します。

主に,住宅ローン及び住宅ローン以外の借金も相続してしまったり,相続した債務に合わせて相続人自身にも借金がある場合を想定しています。

 

任意整理をする場合

住宅ローンがあっても,任意整理は可能です。

住宅ローンは,任意整理の対象にはなりませんが,住宅ローン以外の借金を任意整理することによって債務を圧縮して,住宅ローンの返済を少し楽にすることができます。

また,住宅ローン以外の借金を圧縮しても,それだけでは,住宅ローンの返済が楽にならない場合には,住宅ローンの返済自体を軽くすることも考えなければなりません。

住宅ローンについて,利息ゼロにすることはできませんが,返済期間を延長したり,元金据置といって,住宅ローン以外の債務について,任意整理で決まった期間の返済が終わるまでの間は,元金だけ支払って,住宅ローンの利息は,任意整理の期間が満了した後に上乗せして支払うというものです。

しかし,これには,住宅ローン債権者の承諾が必要となるため,簡単にはいかないことも多くあります。

借り換え(A銀行の住宅ローンを,B銀行で新たに住宅ローンを組んで完済して,利率などの好条件の住宅ローンに切り替えるというもの)も検討することになりますが,住宅ローン以外の負債は,信用情報機関に登録されているため,住宅ローンの申し込みをしても,審査に通りにくいことが想定されます。

このような場合には,住宅ローンは現状のまま支払いを継続していくこととし,住宅ローン以外の借金について月額返済額を大きく減らす必要があります。

まずは,住宅ローン以外の借金について,どの程度まで毎月の返済額を減額させることに成功するのかが一つの鍵となります。

なお,住宅ローン以外の借金に関しては,任意整理をすると,それ以降の利息の支払いは原則免除になりますので,返済計画が立てやすくなります。

今までは,毎月1万円を返済しても,7000円は元金に充当されますが,残りの3000円は利息の返済に充てられるため,元金は7000円しか減りませんが,任意整理を行うことで,毎月1万円を支払えば,確実に元金が1万円減っていくことになります。

 

注意点としては,住宅ローン契約の約定に,次のような定めがあった場合です。

第〇条 お客様が,次の各号の一つにでも該当する事由が発生した場合は,当社からの通知,催告等がなくても,本契約による一切の債務につき当然に期限の利益を失い,直ちに債務を全額返済するものとします。

①お客様に破産,民事再生の申立てがあったとき

②お客様の預金その他の当社に対する債権について,仮差押または差押命令,通知が発送されたとき

(以下略。なお,銀行毎に文言や内容が異なりますので,ご自身の住宅ローン契約書等でご確認ください。)

住宅ローン以外の借金について,その債権者から住宅ローンを組んだ銀行に対する預金が差押を受けた場合,上記条項では,そのときにある住宅ローン残債を全額一括で返済(以後,分割返済はできないということ)しなければならなくなりますので,住宅ローン以外の借金については,遅滞に陥る前に適切に対処する必要があります。

 

 

個人民事再生の場合

民事再生は,該当する当事務所のオフィシャルホームページの該当ページをご参照いただきたいのですが,概要を述べると,住宅ローン以外の借金が,大幅に減額され,その減額された金額を原則3年で返済していくものとなります。

仮に,住宅ローン以外で500万円の借金があった場合,裁判所から再生計画の認可決定をもらうと,この500万円という借金が100万円に減額され,この減額された100万円を原則3年間で支払い,無事に支払い終えれば,500万円あった債務がゼロになるという手続きです。

この例ですと,月額返済額は,約2万7778円となり,500万円の借金を支払っていたときに比べれば,大きな減額になり,住宅ローンの返済がより支払いやすくなります。

しかし,任意整理と違って,個人民事再生の場合は,裁判手続きとなりますので,上記一例でありますが住宅ローン契約の約定にもあるとおり,民事再生の申立てをすると全額一括返済という事態にもなりかねませんが,個人民事再生には,住宅ローンに関し,特別な規定(住宅ローン特別条項)があり,これを利用できる限りにおいては,一括返済を強いられることはありませんのでご安心ください。

また,個人民事再生の申立をする際には,事前に,住宅ローン債権者との事前協議というものが必須となります。

したがって,住宅ローン特別条項を使う個人民事再生の場合には,住宅ローン債権者に内緒で手続きを進めることはできませんし,逆にいうと内緒にする必要もないのです。

なお,既に住宅ローンの返済に遅れが生じている場合で,保証会社への代位弁済が実行されてから6か月が経過してしまうと,住宅資金特別条項は使えなくなるので注意が必要です。

住宅ローンの支払いが滞ってしまう前に,まずは,無料相談をご利用いただくことをお勧めします。

 

 

自己破産の場合

この場合は,自宅の確保は,困難になります。

もし,この家にどうしても住み続けたいという強いお気持ちがあれば,親族に自宅を購入してもらって賃貸借等で済むか,あるいは自分たちが住み続けることを条件として購入してくれる買主を探さなければなりません。

買手が親族の場合には,賃料については柔軟に対応してくれると思われますが,第三者の場合には,投資として購入しているため,相場の賃料をそこに住んでいる間支払い続けなければなりません。

支払いを滞れば,明け渡しの請求を受けて,結局は,そこを出ていかなければならなくなります。

もしかすると,住宅ローンを支払っていたときとあまり変わりない金額の賃料になるかもしれませんし,これでは,何のために破産をしたのか分からなくなる場合もあります(このような場合には,上記の個人民事再生を先に検討してもよいでしょう。)。

この辺は,住宅ローン以外の借金先や借金の額にもよって異なってきますが,十分な検討が必要です。

 

自宅確保を諦めて自己破産をする場合

選択肢としては,大きく分けると2つあります。

1 住宅ローン債権者(または保証会社)が競売の申立てを行い,第三者に落札されるまで,その自宅に住み続ける。

この場合,住宅ローンの滞納状況や物件の評価によっても異なってきますが,半年間程度は住み続けられます(落札者が現れなければ,もう少し長く住んでいられます。)。

この間に,転居先を探したりするなどして出ていく準備をしていくことになりますが,この期間は,執行裁判所の進み具合や物件の立地などによっても異なるため,不確定要素が多くあり,いつでも出ていけるように準備をしなければなりません。

2 自宅を任意売却する。

競売という裁判所が関与する強制的な手放し方ではなく,簡単にいうと,自宅(不動産)を売主として条件の合う第三者に売却することになります。

 

任意売却のメリットとしては,

予め引越しなどの日程を,自分たちで柔軟に決めることができる。

一般的に,競売よりも高値で取引されるため,保証人などがいる場合,債務をより圧縮することができる。

形式的には,通常の売買なので,近所の方に住宅ローン等の滞納があることなどを知られる心配が減少する。

引越費用を,一定程度は確保できる(場合によっては持ち出しなく引越しができる。)。

滞納しているマンション管理費等がある場合,任意売却で清算される。

住宅ローン債権者も,競売よりも高値で売れるということは,それだけ多く回収できるので,協力的である。

任意売却後の住宅ローンの残額について,事情に応じて低額な金額での分割弁済の合意ができる可能性があり,合意した内容を履行している限りにおいては,給与等の差押えは原則ない。

 

競売の最大のメリットは,

何も自分たちでする必要がない(法律の規定に従って淡々と進められる。)。

 

 

一方任意売却のデメリットとしては,

抵当権が複数ある場合,後順位抵当権者が同意しないと成功しない。

自分で交渉することは困難なため,不動産業者に依頼しなければならないが,専門の不動産業者であれば,持ち出しゼロで,仲介手数料は,最後に売買代金から清算するが,専門でない不動産業者の場合,費用を請求されたりするケースもある。

既に競売手続きが開始している場合,時間的制約があり,期限内に買主が見つからない場合には,競売が先に完了してしまう可能性がある。

形式的には,通常の売買ですので,購入希望者に内覧させ,その立会も場合によってはしなくてはならない。

 

 

競売のデメリットは,

裁判所から選任された評価人や執行官が,自宅周辺で写真を撮影したりして近所の目が気になる。

競売物件は,裁判所で内容を閲覧したり,インターネットで公告されるため,一般的に近所の方が知ることは少ないと考えられるが,情報が公開されることにより,購入希望者や競売専門業者等が,近所に聞き込みをすることあるため,近所に不審に思われる可能性がある。

なお,参考までに民事執行法上,現地調査として次の規定がある。

 

民事執行法第57条

  1. 執行裁判所は,執行官に対し,不動産の形状,占有関係その他の現況について調査を命じなければならない。
  2. 執行官は,前項の調査をするに際し,不動産に立ち入り,又は債務者若しくはその不動産を占有する第三者に対し,質問をし,若しくは文書の提示を求めることができる。
  3. 執行官は,前項の規定により不動産に立ち入る場合において,必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
  4. 執行官は,第1項の調査のため必要がある場合には,市町村(特別区の存する区域にあつては、都)に対し,不動産(不動産が土地である場合にはその上にある建物を,不動産が建物である場合にはその敷地を含む。)に対して課される固定資産税に関して保有する図面その他の資料の写しの交付を請求することができる。
  5. 執行官は,前項に規定する場合には,電気,ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を行う公益事業を営む法人に対し,必要な事項の報告を求めることができる。

このような事態にもなりかねません。

いえることは,返済ができないと思ったら,迷わず,専門家に相談をすることが重要です。

返済が滞り,債権者からの督促が厳しくなってから相談に訪れる方は後を絶ちません。

もう少し早く相談してくれれば・・・間違った相談場所でアドバイスを受けなければ・・・

そうなる前に,その道に詳しい専門家に出会えることが,債務整理が成功するか否かの鍵になるのかもしれません。

 

住宅ローンを残して亡くなってしまった場合の相続

住宅ローンを残して亡くなってしまった場合

 

住宅ローンは長期間に渡る契約内容になっていますので,その返済途中で,住宅ローンを借りた方が亡くなることもしばしばあります。

住宅ローンには,基本的に,住宅ローンを借りた方に生命保険(団体信用生命保険)を住宅ローンと共に契約しており,住宅ローンを組んでいる方の約95%が加入しています。

この保険は,住宅ローンを借りた方が死亡や高度障害になり住宅ローンの支払いができなくなった場合に備えた保険で,死亡当時の住宅ローンの残債全額が保険金で支払われるものです。

この保険金によって,住宅ローンは完済となりますので,以後,住宅ローンを相続人が支払う必要もありませんし,不動産も,相続人の方が負債のない不動産として相続することができます。

 

 

相続人が,保険の存在を知らず,住宅ローンの返済を継続していた場合

 

住宅ローンを借りた方が死亡した後に,住宅ローンの返済は銀行口座からの引落しがほとんどですので,預金残高があり,銀行に届け出なければ,毎月引落しが実行されます。

上記保険に加入していたことを知らない相続人の方で,銀行に死亡届をせず,そのままにして,住宅ローンの返済が継続していた場合はどうなるのでしょうか?

この場合は,団体信用生命保険契約においては,住宅ローンを借りた方が亡くなった時点で保険金が支払われることになっているので,本来であれば,支払う必要のないものを支払い続けたことになる結果,死亡後に支払ったものの返還を受けることができます。

しかし,住宅ローン債権者は(銀行等)は,相続人から情報を提供しない限り,詳しい状況が分かりませんので,事情を説明する必要があります。

 

住宅ローンに関する抵当権抹消の手続き

 

団体信用生命保険金で,住宅ローンの残債がなくなると,次に行うのは,不動産に設定された抵当権の抹消手続きです。

保険金で住宅ローンが完済になっても,金融機関(銀行等)は,自動的に抵当権の抹消手続きを行ってくれることはありません。

まず,住宅ローン債権者から住宅ローンの金銭消費貸借契約書や抵当権設定契約証書など,抵当権を抹消するための書類を送ってくるか,または銀行に受け取りにくるようなご案内があります。

金融機関(銀行等)がやってくれるのはここまでです。

抵当権抹消に必要な書類を受領した相続人の方は,ご自身で管轄法務局に行って抵当権抹消の手続きをするか,あるいは司法書士に抵当権抹消の手続きを依頼することになります(銀行等から受領した書類の中に,このような案内もあります。)。

抵当権の抹消登記には,登録免許税を支払う必要があり,登録免許税の額は,不動産1つあたり1000円となります(土地1筆と建物1棟であれば2000円)。

なお,同一管轄の法務局で20物件を超える場合には,申請1件あたり2万円が上限となります。

銀行等から書類が送られてきたら,できるだけ早い段階で,抵当権抹消の手続きされた方がよろしいかと思います。

たまに見かけますが,銀行から受領した抵当権抹消書類を何年間も放置した結果,書類の紛失や,抵当権者の合併,あるいは,次の相続が発生するなどして,書類を受領した段階で抵当権抹消登記申請をしていれば,比較的簡単に終えることができた手続きが,大変複雑になってきてしまいます。

 

ここで大きな注意点ですが,上記の抵当権抹消登記申請の前に,相続による不動産の所有権移転登記を行わなければならないということになります。

つまり,当該不動産の所有権を相続人に移転し,その後に,抵当権の抹消登記申請をする,ということになります。

なぜかというと,時系列的に,住宅ローンを借りていた方が死亡し,それにより保険金が支払われて住宅ローンが完済となったため,抵当権を抹消できるのは,不動産を所有した相続人からの申請に基づいて行われるため,その前提として,所有を相続人として所有者の移転手続きを前提として行わなければならないのです。

抵当権抹消登記申請の前に,所有権者を,住宅ローンを借りていた方から相続人に変更しなければ,物権変動の過程を忠実に反映させるというという不動産登記法上の要請にも応えられないため,このような流れになるのです。

似て非なるものとして,相続が発生する前(住宅ローンを借りた方が死亡する前)に,住宅ローンを完済した場合(住宅ローンを組んだ方が繰り上げ返済や約定返済によって完済)には,物件変動の順番としては,住宅ローンの完済の後に死亡と続くため,所有者(権)の移転登記を行うことなく,抵当権の抹消登記申請を,相続人が行えることになります(その後に相続による所有権移転をしても問題なし)。

簡単に区分すると,住宅ローンを完済したとき(抵当権抹消原因が発生したとき)に,住宅ローンを借りた方が生きていたのか,あるいは亡くなっていたのかで区別すると理解しやすいと思います。

 

団体信用生命保険と相続税

 

通常の生命保険ですと,保険金が相続人に支払われた場合,みなし相続財産となりますが,団体信用生命保険は,相続人には支払われる性質のものではありません。

したがって,通常の生命保険とは異なり,みなし相続財産には該当しません。

また,相続税で,債務控除というものがありますが,住宅ローンの残債は,相続開始時において確実な債務ということができず,住宅ローンの残債は,死亡と同時に保険金によって完済となるため,これを債務控除することはできません。

以上の結果から,

①団体信用生命保険金は,相続財産に加えない。

②住宅ローンの残債は,債務控除しない(できない)。

③住宅ローンの抵当権が設定された不動産を負債のない不動産として評価する。

ということになります。

 

 

それでは,団体信用生命保険に入っていなかった場合はどうでしょう?

 

相続人の方は,住宅ローンの残債(負債)を法定相続分の割合に従って引き継ぐことになります。

住宅ローンを借りた先(銀行等)には,相続の届出と,今後,誰が住宅ローンを支払っていくのか,所定の書面の提出を依頼されます。

債務も遺産分割の対象とすることができますが,債務については,対債権者の関係もあることから,この債権者(住宅ローン債権者)の同意なく,引き継ぐ債務の割合を相続人間で勝手に遺産分割協議で決めたとしても,相続人間では有効であるものの,住宅ローン債権者に対しては,遺産分割で決めた法定相続分とは異なる割合を対抗することができません。

これは,遺産分割協議によって,資力のない相続人に集中させることも考えられるところ,このような自由があると,債権者に不当な不利益を課してしまうことになるからです。

そのため,銀行等に対し,ある特定の相続人が引き継ぐものと届け出たとしても,その特定の相続人が住宅ローンの支払いをストップするようなことがあれば,他の相続人に対し,相続分に応じて請求していくことになるでしょう。

このような不安定な立場を解消する方法として,免責的債務引受といって,特定の相続人が,他の相続人の債務も全て引継ぎ,引継ぎをした他の相続人は,住宅ローン債務から逃れることができます。

しかし,これは,銀行等の同意が必要でありますし,かつ,特定の相続人(引き継ぐ人)の審査(住宅ローンを借り入れる際に行う審査同様)を行い,その審査をクリアーしてはじめて,他の相続人は相続した住宅ローン債務から離脱できるのです。

または,住宅ローン債務を引き継ぎたくない相続人の方は,相続放棄をすることもできます。

相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されれば,住宅ローンの支払い義務は原則なくなりますが,相続登記をして名義人となったり,亡くなられた方の預貯金を取り崩して自己のために費消したりするなどした場合は,単純承認したものとみなされ,相続放棄の申述が受理されない場合もあり得ますので,相続放棄をするかどうか迷ったら,亡くなられた方の遺産には一切関わらない(手を付けない)ことが賢明です。

相続放棄申述が受理されるか

相続人が,被相続人名義の預貯金を解約して,解約した金銭で墓石を購入した行為が,民法921条1号の「相続財産の処分」に当たるか。

 

≪参照条文≫

第921条

次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。

1 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは,この限りでない。

以下略

 

≪判旨≫

被相続人の死後,被相続人名義の預金を解約し,墓石購入費に充てた行為が,民法921条1号の「相続財産の処分」に当たるとして,相続放棄の申述を却下した審判に対する抗告事件において,預貯金等の被相続人の財産が残された場合で,相続債務があることが分からないまま,遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり,また,本件において購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上,それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としていることなどからすると,「相続財産の処分」に当たるとは断定できないとして,原審判を取り消し,申述を受理した事例(平成14年7月3日大阪高等裁判所決定/平成14年(ラ)第408号)

 

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預貯金債権の相続手続き

【預貯金債権の相続について】(遺産分割の対象になるか)

 昨日(平成28年12月19日)の最高裁決定が出るまでの間は,預金債権について,「相続開始(被相続人の死亡)と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人の分割単独債権となる」ことから,遺産分割の手続を要しないものであって,そもそも遺産分割手続の対象とはならないこととされて裁判実務が運用されておりました。

つまり,相続した預金債権については,不動産などと違って遺産分割をするまでもなく,相続開始と同時に,各相続人の相続分に応じて分割承継が既になされる状態になっているのだから,遺産分割の対象とはならない,ということでした。

一方,家庭裁判所で行われる遺産分割調停等においては,預金債権も遺産分割の対象とする合意があれば,遺産分割の対象とする例外運用はなされていました。

もっとも,相続開始と同時に相続分に応じて分割されるからといって,共同相続の場合において,銀行の窓口に行って「私の相続分だけを払い戻してほしい」と言っても,相続人全員の印鑑証明書を持ってきてほしいなど,法律上は直ちに分割されているとはいえ,銀行実務では,二重払いの危険などの理由からこの運用はされてきませんでした。

なお,それに納得できない相続人は,自己の相続分について,預金払い戻しに関する訴訟を提起すれば,裁判所は,当然分割承継説ですので,勝訴判決が出ていたものです。

 

昨日の最高裁決定の原審(大阪高裁)も「本件預貯金は,相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し,相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならない」などとしたものの,最高裁は,それを次のような理由から,原審の決定を破棄して,事件を大阪高裁に差し戻したものです。

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